校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

6月29日初等科保護者講演会 高橋孝雄先生をお招きして

2019.07.01

6月29日土曜日に初等科保護者のための講演会を行いました。今年度は慶應義塾大学医学部教授の高橋孝雄先生を講師にお招きしました。演題は「子どもの心と知能を育む遺伝子の力、環境の力」。高橋先生は日頃は小児科医として病院の外来で数多くの子どもたちと接していらっしゃいますが、そのご経験からお母さんたちとの関わりの重要さ、特にお母さんたちに安心感をもってもらうことの重要さを感じられ、親に向けて発信することにも努められています。温かみのあるお人柄と人間は幸せになるように生まれてきたという信念を感じさせていただきながら、ドクターの視点からの楽しく、説得力ある講演に多くの保護者と共に耳を傾けました。

まず、第一のポイントは「遺伝と環境」。胎内環境は非常に安定していて、環境の外的影響はごく小さいとのこと。胎児は遺伝子の力に強力に守られているということで、これは母親のひとつの安心材料と理解しました。妊娠中のお母さんが少しくらい思いがけないことに遭遇しても、子どもの育ちには関わりません。遺伝子は生きて行くための設計図ということですが、正常なものには、必ずばらつきがあることもあげられました。これも安心材料です。他のお子さんと成長や発達を比べて心配になることもありそうです。しかし、正常な発達にも成長にも幅があるということがわかると、違いを個性として見てあげることができます。また、生まれたときは遺伝の力の方が大きいですが、時間と共に環境の力の影響が強くなっていくということです。そして、遺伝が生まれつきのものであっても、困難を克服することもでき、人として幸せな人生を手にいれることができる、一方、環境とは、子どものいのちと人生を長い目で見て、将来幸せになるために整えていくものであり、遺伝子のシナリオにも余白があるので、環境に恵まれると遺伝的に苦手なことも克服できるものがある。このようなことを伺って、遺伝と環境のバランスの重要性を学びました。

親から受け継いで、持って生まれたものの大きさに感謝しつつ、環境によってそれを補っていかかれば、豊かで幸せな人生となるのでしょう。環境とは、子どものころは周囲の配慮によって与えられるものですが、年齢が上がるにつれて、自分で選択していく部分も大きくなるものです。高橋先生は子どもたちが実体験から学ぶことの重要性をあげられました。実体験を通して情報を蓄積し、判断や問題解決につなげていく。そこでは想像力も働かせることになります。そして、自分の経験を通して他者へ共感する力も身につけていく。実体験が根拠になっていないことは意味がない、とも言われました。実体験があれば、それに基づいて他者に共感することができます。このプロセスでは、成功より、むしろ失敗から学ぶことが多いとも言われ、これもまた安心材料の一つと感じられました。「失敗しても大丈夫」と常々本校では言ってきましたが、失敗を悪くとらずに学びの機会として上手に活かして行きましょうと励ましていただいたかのようです。日々の失敗が実体験に基づくものであれば、想像力を育てる機会となるということです。

小児科医は「代弁者」と捉えていらっしゃるのだそうです。代弁者に必要な力は、まず情報を集める力、つまりしっかり話を聴く力、目を配り、気づく力、思いを汲み取る力であり、そして、次に納得させる力が求められるということですが、これはわかる言葉で表現する力だということです。わかる言葉で話し、伝えることができないと、治療について説得することができません。子どもは自分の病気のことを上手に表現する言葉をまだもっていないかもしれません。小児科医は病気の子どもを代弁する、そして、病気の子どもをもつ親の代弁もする。代弁者という発想は、病気の回復は本人自身のことであり、本人中心に考えるという基本的なところに立てばこそ生まれてくるもののように思われます。そこで、代弁者という視点で育児に求められるものを考えてみると、子どもによりそうやさしさと、子どもを納得させる強さが求められるということです。子どもを納得させるには、理由を聞いてあげる、わかる言葉で返し、解決に向けて説得することが求められるということです。子どもをより良く育てるには、社会全体として子どもを育てること、社会が大人として説得力のある行動をとること、と最後にまとめてくださいました。親だけでなく、社会全体でと言ってくださったことも安心材料と感じられました。

わかる言葉で話していただき、説得力がある講演でした。親の立場に共感してくださることが感じられ、安心してお聞きすることができました。子どもが失敗から学ぶなら、同じように親として、子どもに接する大人として、失敗があっても、それが実体験であれば、そこから学び取ることができる。子どもの心に共感し、子どもに対して説得力のある言葉を語ることができるようになることができると感じさせていただきました。私たち教員には、子どもの心だけでなく、親の心に共感することが求められている、このことを改めて感じさせていただきました。そして、高橋先生は育っていく子どもたちの代弁をして語ってくださったのだと気づかされます。保護者の方々と共にこのようなことを学ぶことができたことは大きな喜びでした。

お忙しい中、講演してくださった高橋孝雄先生に感謝しつつ、ご著書を改めて読んでみたいと感じています。そして、また、機会があったらぜひお話を伺いたいものです。

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