校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月17日初等科卒業式

2023.03.18

 6年生の初等科卒業を祝いました。今年は5年生も参加しました。平常がもどってきた喜びを感じながら一人ひとりに卒業証書を渡しました。上の画像は図工の授業で描いた絵手紙です。

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 6年生の皆さん、初等科ご卒業おめでとうございます。

 春も間近な日に皆さんのご卒業をお祝いできることは大きな喜びです。

 小学校の6年間は大きな成長の期間です。1年生の時と比べて、身体も考え方も感じ方も成長して今ここにいます。それぞれの場で小学生になった皆さんが、神様に招かれて出会い、こうして一つの学年として初等科の卒業式を迎えました。これまで様々な経験をしてきました。新型コロナウイルスによって、思いがけないこともたくさんありました。自由に活動できない期間には残念な気持ちになったこともあったかもしれませんが、制限があったからこそ一つひとつの事柄を大切に過ごすこともできたかもしれません。特に、5年生からのセカンドステージの2年間は意味深い成長の時だったでしょう。

 一緒に過ごした貴重な経験がたくさんあります。中でも、6年生の清里での校外学習やクリスマスウィッシングや学習発表会などの行事は皆さんの心に深く残っているでしょう。6年生最後の学年の集いでは皆さんの色々な思いを私も聞かせていただきました。聖心の生徒として神様のことも学び、世界に向けても視野を拡げてきました。SDGsについても考えることができ、初等科プラザに展示された皆さんの図工の作品には皆さんのSDGsへの意識が表現されていました。皆さんはSDGsの達成目標年の2030年にちょうど20歳になります。そのことを考えて、未来を思い描いた作品はとても個性豊かでした。8年後の世界が、世界のどこにいる人にとっても、男の人にも女の人にも、人間だけでなく地球上のあらゆる生命にも平和で安心なものでありたいです。皆さんがアートとして描いた世界を、これから皆さんは少しずつ現実のものとしていきます。初等科の卒業はまた一歩の前進です。

 でも、未来はどのようになっていくのだろう、皆さんの心には心配や不安もあるかもしれません。6年生を送る会で、皆さんが下級生へのお礼として選んだ歌を聞きながら皆さんの思いを考えました。皆さんはアンジェラ・アキの「手紙 拝啓15の君へ」を歌いました。皆さんの心の思いを表す歌として選んだのでしょう。15歳だと3年後の皆さんということになりますが、今の皆さんの心にも、悩みの種があり、負けそうで、泣きそうで、消えてしまいそうな気持ちがあり、誰の言葉を信じればよいのかという思いもあるのでしょう。もうあきらめてしまいそうなそんな苦しさに、この歌は大事なことを呼びかけてくれます。「人生の全てに意味がある。自分の声を信じて歩けばいい」と呼びかけてくれています。ああ、やっぱりそうだ、それしかない、と感じさせてくれる力のある歌だと感じます。皆さんもこの歌に励まされる思いがあったのでしょう。良い選曲です。でも、実は、自分の声を聞くこと、信じることはむずかしい。周りの様々な声に乱されて、自分の声が聞こえないことがある。自信がなくて、自分の声を大切にできないことがある。自分の声を信じられないことがある。

 今日、3月17日は日本のキリスト教会には大切な日です。186年の3月17日に長崎で、フランスから来た神父たちが作った新しいカトリック教会に何人かの人々がやってきて、「マリア様のご像はどこですか?」と神父様に尋ねて、自分たちがイエスを信じていることを告げました。江戸時代の200年間、禁止されていたキリスト教への信仰を、神父様も教会もない状況の中で保ちつづけてきた人々がいたということです。この日を「信徒発見の日」として教会では大切にしています。この年は聖マグダレナ・ソフィアが亡くなられた年でもありました。聖心の私たちには重要な年です。

 この人々は200年の間、自分たちの中で、イエスを信じる心を自分たちの声として大切に信じて歩き続た人々です。親から子へと自分たちの声を聞き続け、信じ続け、受け渡し続けた人たちです。本当に大事なことを聞き続け、守り続けました。家族や仲間で大事なことを確認し合い、助け合いながら歩み続けました。「私」だけでなく、「私たち」の共同体の意識をもって、自分の声を自分たちの声として大切に聞き続けました。大事なことは共有されていくものでもあるのです。自分の声を聞き続けるために、仲間や共同体は大きな力です。この人々は、イエスと神様はいつも共にいてくださるということも感じていたことでしょう。神様が共にいてくださる、私たちの中にいてくださる、と信じて待っていました。何を?自分たちが信じていることが本当のこと、本当に大事なことだとわかる時がくることをです。日本の教会はこのような力強さをもった人たちがいた歴史を大事にしています。仲間と共に大事なことを守り続ける姿勢は私たちも学びたいことです。

 自分の声を聞き続けるためにもう一つ大切なことがあります。それは喜びです。そこで、私が大好きな一冊の絵本を紹介したいと思います。絵本ですが、子どもっぽいものではありません。喜びと幸せがいっぱいつまっている絵本です。2人の女の人と3人の子どものアメリカの家族の話です。とても温かくて、楽しい家族です。3人の子どもは、1人はアジア系の男の子、2人目はアフリカ系の女の子、3人目は白人の女の子です。だから、子どもたちは目に見える姿は全然違っていて、ふつうの兄妹のようには見えません。それでも、とても仲が良くて毎日が楽しい喜びでいっぱいです。この家族の女の人たちは子どもが好きで、事情があって親に育ててもらえない子どもを家族として育てたいと思ったのです。子どもたちは大切にされて、3人でいたずらして大騒ぎしたり、3人で一緒にインフルエンザにかかったり、みんなでおいしいものを作って大喜びで食べたり、いつも家は喜びでいっぱいです。この3人は全然似ていない、この家にはお父さんがいない、とか言う人もいましたが、この家族にあふれている喜びはそのような批判を吹き飛ばしてしまうかのようでした。この絵本はこのような喜びでいっぱいの場面ばかりが描かれている、幸せがいっぱいつまった絵本ですが、よく考えてみると、この絵本の2人の女の人たちは自分たちの大切にしたいことを見失わないで、自分たちの心の声を聞き続ける人たちだったとわかります。人と比べず、目に見える姿に惑わされず、自分たちの大事にしたいことをしっかり掴んでいました。それで、喜びもたくさんみつけました。信念のある人たちだとも言えます。助け合って、自分たちの声を確認し合ってもいたでしょう。毎日の生活の中で小さな喜びを大切にすることが、自分の声を聞き続ける力にもなっていました。こんなふうに生きられたらすばらしい。皆さんにもこんなに喜びのあふれる人たちにぜひなってほしいと思います。

 初等科を卒業して中学生になる皆さんは、これから各自、自分の声を聞くことがより一層大切になります。一人ひとりが自分の声に耳を傾けて、自分らしさをこれから深めていってください。私たちは一人ひとり、神様からその人だけの大事なものをいただいて生まれてきています。今6年生として皆さんは、私ってこんな人かもしれない、と気づき始めているでしょう。一人ひとりお友だちとは違う私です。時々わからなくなって、どこに向かって行ったらよいか、誰のことばを信じたら良いのかと感じることもあるでしょう。そんな時は静かに自分の心に耳を傾けて、自分の声をみつけましょう。初等科での沈黙の経験が助けてくれます。これから中学生になって忙しくなったり、周りの声が気になってさわがしくなったりしても、自分の声に耳を傾けて、自分の声を信じてください。

 迷いそうになったら、送る会で歌った歌を思い出しましょう。そして、先ほど紹介した絵本は中高等科の図書室にありますから、たくさんの本の中を探検して、いつか自分で見つけてください。皆さんがみつけてくれる時を、この絵本は他のたくさんの本と一緒に待っています。

 初等科での様々な学びや経験に感謝して、中学生としての次のステップへと進んでいってください。皆さんが自分の声をしっかり掴んで、自分らしく活躍していくことを心から願って、皆さんへのお祝いの言葉といたします。

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