校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

9月25日初等科朝礼 昔の物語にも虫の大好きな姫が!「虫めづる姫」

2024.09.25

 源氏物語、竹取物語と2週続けて古典の物語を話しましたので、3つ目に「虫めづる姫」を取り上げました。この物語については、生命科学者の中村桂子さんが『「ふつうのおんなの子」のちから』(集英社2018年)の中で取り上げておられ、虫をめでて、いのちを愛おしむ姿を理科的な意識をもってしっかり学ぶ姿勢につなげて、おんなの子のもつ力として注目していらっしゃいます。今回も参考にさせていただきました。本校でも、緑に恵まれた校庭には色々な虫がいます。養蜂も始めました。子どもたちの虫や生きものを大切にする心を育てています。画像は3年生の教室の前で飼っているバッタです。

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 先週の竹取物語のお話はおもしろかったでしょうか。昔の物語にもおもしろいものがあるとわかってもらえたらうれしいです。

 今日も昔の物語、古典の物語の話をします。皆さんは、虫は好きですか?虫がとても好きだと言う人も、あまり好きでないという人もいるでしょう。ダンゴ虫なら大丈夫とか、カイコはかわいいという人もいるかもしれませんし、ゴキブリは嫌だという人もいるでしょう。虫も色々です。美しいチョウチョもいるし、人に害を与える、刺す虫もいます。そういう虫は困ります。

 今日の物語は、竹取物語や源氏物語と同じくらい古いもので、誰が書いたかわかっていません。「堤中納言物語」という本の中に出てくるもので、「虫めづる姫」という物語です。「めづる」という言葉は今はあまり使わない昔の言葉ですが、何かを大切にする、大事にするという意味があります。ですから、「虫めづる姫」というのは、虫が大好きで、虫を大切にかわいがっているお姫様の話ということです。

 ある立派な家に一人のお姫さまがいました。美しいチョウチョが好きな姫はいるものですが、この物語の姫は色々な虫が好きで、たくさん虫を集めてはよく観察して、虫が変化するのをよく見ていました。特に毛虫が好きで、毛虫がチョウに変化するのを楽しみに観察していました。とは言え、この姫をお世話する女の人たちは姫が虫を飼っているのが怖くて、嫌で仕方がありません。すると、姫は虫が嫌いだなんて残念で、子どもっぽいと言って怒ってしまいます。見かけの美しさだけにとらわれているのはつまらない、ものの本当の姿を知ろうとすることにこそ意味があると考えています。女の人たちが嫌がるので、姫は男の子たちにお願いして、虫を捕まえてもらっています。色々な虫の名前を知りたいし、名前のない新しいものをみつけたときは、名前を考えてつけたりしていました。

 さて、この時代の女の人は長い髪の毛を大事にして、髪の毛が流れるように顔にかかるのが美しいとされていましたが、この姫は虫を観察するのに邪魔だと思えば、髪の毛を耳にかけて落ちてこないようにしてしまいます。でも、そんなことを普通のお姫様はしません。髪の毛を耳にかけたりするのは、仕事に忙しい女の人たちだけです。

 このように、このお姫様はおしゃれやお化粧が好きではありません。自然のままで良いと思っているようです。おしゃれより虫の方が大事です。姫をお世話している女の人たちの中には、こんな姫の悪口を言う人もいます。お父様、お母様も姫のことを心配しています。この姫はふつうの姫とは違っている、困ったことだと思っています。「少しはちゃんとしたらどうですか、みっともない。世の中の人は、見た目の美しさも大事にしています」とお父様が姫に言うと、姫は「人のうわさなんかかまいません、ものごとをよく見て、どのように変化していくかということを確かめることはとても大事なことです。毛虫はチョウチョになります。そして、絹の糸はカイコの繭から糸を取るのです」と言って、しっかり説明してくれます。お父様は困ったことだと思いながらも、姫が自分の考えをしっかり持っているから、これも仕方がないかと考えています。

 あるとき、この姫のうわさを聞いた男の人たちがどのような姫だろうと関心をもって、いたずらを仕掛けてきたことがありました。虫は好きかもしれないが、蛇はどうだろうと言って、作りものの蛇を袋に入れて、歌を添えて姫に贈り物にしました。姫が袋を開けてみると、蛇が出てきて、それがほんものそっくりだったので、姫はびっくりしてしまいました。なんとか落ち着いて蛇のことも大事にしようとしますが、虫と同じような訳にはいきません。騒がしくしているとお父様が来て、作り物だということを見破ってくださいました。さて、このような時は歌のお返事をすることが決まりなので、姫もお返事をすることになりましたが、日頃あまり経験がなく、美しい紙も持っていないし、まだ美しい文字を書く練習もしていません。それでも、なんとかお返事をしました。虫以外のことにはあまり関心がないのです。 男の人が姫をからかうのはちょっと嫌な感じですが、姫は気にしていません。姫は虫のことに夢中なのでしょう。

 「虫めづる姫」というのは、こんなお話です。ずっと昔にも虫の大好きなお姫様がいたのです。この姫は、ほかの人とちがっている、おかしな人だと言われたりしながら、自分の好きなものは好き、とはっきりしているし、虫をよく観察して、変化を知ることは大事だというしっかりした考え方をもっています。ずっと昔でも、見た目の美しさだけではなく、変化することに気づいたり、考える力を大切にしたり、理科のように観察したり、きちんと知ったりすることを大事にしたい女の人がいたのです。多くの人が「女の子がすることではない」と思っていたことでも、それに流されないで、自分の考えをしっかり持っていた女の人です。変わっていますが、まっすぐで心の美しい姫の話です。こんな姫の物語が伝わっているのはとても楽しいし、うれしいことです。こういう人が昔にもいたから、今の私たちがあるのかもしれません。今の私たちは女の子だからこうでなければならない、男の子だからこうでなければならない、ということはありません。誰でも好きなことを一生懸命にする可能性を持っています。

  古典は本当におもしろいです。いろいろな発見があります。皆さんもおもしろい話を見つけてください。

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