トップページ > Spirit of "Mikokoro" > 3月14日 初等科卒業式 オンリーワンであること
初等科卒業式を5年生が代表として参列して行いました。5年生による退場の曲の合奏はコロナ禍後初めて実現しました。今回取り上げたルビー・ブリッジズは「ルビーの一歩」という本に自らの経験を記しています(あすなろ書房 2024年)。画像は4年生玄関の早咲きの桜です。
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6年生の皆さん、初等科卒業おめでとうございます。
3月も半ばとなり、陽射しは春を感じさせます。校庭では白い大きなモクレンの花が咲き、4年生の玄関では早咲きの桜がきれいになりました。そのような季節に皆さんは卒業の日を迎えています。
1年生から12年生までの聖心女子学院ですが、6年生は一つの区切りです。今日は初等科を終えてこの区切りを越え、皆さんは次の段階に進んでいきます。
今はどのような気持ちでしょうか。皆さんの学年は、2年生の終わりに突然コロナ禍のために学校がお休みになり、3年生の始めは思いがけない日々でした。これは世界全体の経験でしたが、成長していく皆さんにとって大切な学校生活の日々が制限されてしまうことが続き、とても残念でした。それでも初等科では色々な工夫をして皆で頑張ってきましたし、去年の5月過ぎからは様々な活動をまた思い切りできるようになってきました。
6年生の皆さんの姿を思い起こしてみると、12月のクリスマス・ウィッシングと2月の学習発表会での、とても生き生きとして、楽しく喜んで活動していた姿がとてもうれしく思い出されます。6年生が楽しく活動していることが初等科全体の生き生きした雰囲気を作っていました。学年としての力だったと思います。初等科の最後にそのようなよい時間を皆で作れたことはとても良いことでした。自分たちの学年の力として、皆でこれからも大切に育てていってください。ここには、お互いに協力する、力を出し合う、という経験がありました。これは、今年度の目標「私から私たちへ 対話:問いかけ、話し、聞く」を実現していました。皆さんも実感できると思います。
6年生を送る会では、下級生たちが心を込めて出し物を考えてくれて、6年生の皆さんはそれに応えて「世界で一つだけの花」を歌いました。歌詞がとても素敵で、意味深い歌です。きっと皆でよく考えて、この歌を選んだのでしょう。今回、私も少し考えてみることにしました。
「世界で一つだけの花」の歌は、お花屋さんの店先で花を選ぶ場面から始まります。色とりどりのたくさんの花があって、選ぶのはとても難しい。どれが一番美しいかと考えるとNo1を決めることになりますが、そうではなくて、それぞれの異なる美しさを大切にしようと考えて、色とりどり花を集めた大きな花束を買います。ここから、一人ひとりが違っていて、その美しさを開花させることに一生懸命になろう、特別なオンリーワンを目指そう、このようなメッセージが伝わる歌です。皆さんは「一人ひとりを大切に」ということを考えて、自分たちのためにも、下級生たちのためにもこの歌を選んでくださったのでしょう。人と比べない、一番を競わない、自分が自分でいていいんだ。これらはとても大事なことです。
オンリーワンとは一人ひとりがかけがえのない存在だ、ということです。私たちは一人ひとり神さまから大切なものをいただいています。それは本当に比べられないものです。でも、オンリーワンを受け容れるということは、勇気のいることでもあります。No1は皆が認める何かの基準によって決められるものです。自分の基準ではない、外の世界の基準ではありますが、「皆が認める」という共通認識があります。その意味では安心できます。
一方、オンリーワンは、人に気づかれない、目立たない存在になるかもしれません。その意味では、オンリーワンを選ぶということは、自分がしっかりしていることが求められます。自分の考え方、自分の大切にしたい基準をしっかり持っているということです。人に流されない、ということでもあります。これはやはり勇気がいることです。一人は一人。数は少ない。しかし、その一人の存在が大切ということです。
一人のアメリカ人の女性を紹介します。この方はルビー・ブリッジズという名前で、1960年に小学校1年生になりました。この子どもは普通の子どもです。しかし、黒人の子どもとして、初めて白人の子どもたちと同じ学校に行くことになったオンリーワンの子どもでした。ルビーが白人の小学校に行くことになったのは、大人たちの決めたことです。それまでアメリカの社会では、白人と黒人の学校はそれまで別々に設けられていました。それは黒人に対する差別でした。それが1960年になって、社会の仕組みを変えることになったのです。ルビーが最初の子どもとして、白人の子どもの学校にオンリーワンの黒人として入学しました。これはアメリカの学校の歴史に大きな一歩でした。
ルビーはアメリカの社会の大きな変化の最初の一歩として、オンリーワンの生徒だったのです。しかし、それは大変なことでした。ルビーは学校に行くことを楽しみにしていたのに、黒人の子どもが白人の子どもの学校に行くことに反対する大人の人たちがたくさんいました。そのために、白人の学校に行っても、教室にはルビー一人でした。ルビーは、オンリーワン、特に最初の一人としての困難をたくさん経験しなければなりませんでした。私はアメリカの学校の歴史にこのような出来事があったことを知りませんでした。
オンリーワンは孤独をもたらすこともあります。それをルビーが教えてくれます。これは勇気のいることです。でも、オンリーワンでなければできないこと、オンリーワンから始まることがあることもルビーは教えてくれます。
ルビーは幸いに良い先生、友だちにも恵まれて、だんだんと学校生活の楽しさを味わうこともできました。多くの人にも助けられました。そして、成長して大人になってからは、人々に自分の経験、特に差別の問題について伝えています。ルビーは黒人です。しかし、ルビーはルビーというたった一人の人間であること、大切なオンリーワンとして、「私たち」という人間の大きな共同体の一人であることを、勇気をもって伝える存在になりました。
皆さんは初等科を卒業し、中学生になります。新しい世界が皆さんの前に開かれます。同じ聖心女子学院の中でさえ、皆さんの知らない新しいことがたくさん待っています。これからその新しい経験を通して、皆さんそれぞれが自分の中の神様からいただいたオンリーワンは何であるかを探していきます。自分が何を大切にしたいのか、他の人の基準ではなく、自分の基準の中の大事なことは何なのかみつけていくことになるでしょう。これから初等科で学んだこと、身につけたことを土台にして、オンリーワンである自分をみつけていってください。きっとみつかるという希望をもって進んでください。聖マグダレナ・ソフィアは一人ひとりの中に輝く、特別な光を信じていました。それをみつけていってください。初等科の先生たちと共に、皆さんを喜びと希望をもって送り出します。
ご卒業おめでとうございます。これを皆さんへの今日のお祝いの言葉といたします。