校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

4月7日 高等科入学式・始業式 「希望の作り手になる 変容を生きる ~私から私たちへ~ Towards an ever wider We 」

2022.04.07

 高等科は午後に3学年がソフィア・バラホールに集まって入学式・始業式を行いました。入学式後には12年生から10年生に対して高等科生活のオリエンテーションも行われ、10年生たちは高等科生としての心構えを学びました。上の画像はウクライナ、リビウにあった聖心の1912年の生徒の様子です。リビウの聖心については聖心会ローマ本部Webサイトで見ることができます。https://rscj.org/news/the-society-of-the-sacred-hearts-history-in-ukraine?bbeml=tp-I3p2Igb6L02cYsIOZKZElw.j9gKmVdH-QUaHm4vr4k2mXg.rdhQVTPguLEeKlBqWSsie5A.lvg4FXeTFuU2349M40s1yXg

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 10年生の皆さん、高等科入学おめでとうございます。11年生、12年生の皆さんも進級おめでとうございます。これから豊かな学校生活を送っていきましょう。

 今ここにどのような気持ちで集まっているでしょうか。2年前の春は新型コロナウイルスのために家で新学年を迎えました。昨年も色々な制限もある中での学校生活でした。今年もまだ心配は残ります。しかし、コロナ禍3年目の春を迎えて、これまでの経験を活かし、感染対策にも努めながらできる限りのチャンスをつかんで、色々な活動にチャレンジしていきましょう。期待通りにならないこともあるかもしれません。しかし、一方で、考え方こともない形で実現していくこともあるかもしれません。得られなかったことよりも、手にすることができたことに注目していく毎日としていきましょう。過去や期待、自分の思いや考えにとらわれず、今ここにあるものの可能性に注目しましょう。今、ここ、の中に神様の恵みがきっとあります。

 高等科を始める10年生の皆さんは、聖心のまだ知らない、新たな扉を開いてください。9年生から始まるサードステージの続きと考えないでください。10年から始まる新しいことがたくさんあり、高校生になったからこそできること、開かれていくことがたくさんあります。大事なことは情報をしっかり得て、自らチャンスをつかんでいくことです。皆さんがまだ知らない聖心の魅力と可能性がたくさんあります。3月にお話ししたように留学の機会も広がっていきます。

 10年生の皆さんが学び始める高等科の教育課程はこれまでと異なる新しいものです。11年生の皆さんが昨年学んだものとは異なる教科の名前や時間の割り振りになっているものがあります。これから始まる3年間を意欲をもって取り組んでください。高校生として主体的に学ぶこと、課題に取り組み、探究していく姿勢が求められます。

 「探究」は問いを立てて、答えを探し求めていくことです。しかし、探究の問いには正解や解答があるとは限りません。この問いの先には何があるのだろう、と自分の中の疑問を大事にしてください。皆さんにとって本当に大事な問いは、どこかに正解があったり、他の人に代わりに答えてもらったりすることのできないものです。私が本当に知りたいこと、不思議に思うこと、そのような問いをぜひみつけてください。私はこれをぜひやってみたい、でもどうやったら実現するのかわからない、このような問いもあるのかもしれません。学校で教科として教室で学ぶことを通して、教科の知識は深まります。しかし、それだけではなく皆さんの視野を広げ、筋道の通った考え方を訓練し、様々な事柄を整理して、判断していく力も強めていってください。11年生、12年生の皆さんも、学習を通して思考力と判断力を磨いていってください。

 今年の学校の年度目標は「希望の作り手になる、変容を生きる、私から私たちへ」としました。「私から私たちへ」はこれまでの心がけてきた教皇フランシスコの言葉です。「Towards an ever wider We"」と英語もつけました。「私たち」の範囲がどんどん広がっていくことを示しています。ウクライナでの戦乱が続いている今、この「私から私たちへ」は大事だと感じています。平和は「私」だけのものではありません。世界が「私たちから私たち」になるときに、作られていくものです。そして、私たちは希望をもって平和を求め、この世界が変容していくように働きかけていかなくてはなりません。

 学校生活の中で身近な関わりをまず大切に作っていきましょう。そして、「私から私たち」へと関わりを広げていきましょう。

 3月の終業式でポーランドの聖心のシスターたちがウクライナから戦乱を逃れてきている人々を支援しているとお話しました。そして、ウクライナと聖心の関わりにはとても大事な歴史があります。聖マグダレナ・ソフィアの時代1841年にウクライナの北西部の町リビウに聖心の学校が創立されました。フランス語で学ぶ学校で、写真を見るととても立派な校舎の学校で、生徒たちもすてきな制服で学んでいました。しかし、第一次世界大戦、ロシア革命とソ連による占領、第二次世界大戦でのドイツ軍の侵攻など、ウクライナの国と共に様々な苦難を経験し、1944年に国がソ連の支配下に入ると、聖心の学校は1945年に閉鎖されていまいました。それ以後ごくわずかなシスターだけがウクライナに残ることになり、最後のシスターは1971年までウクライナで働きました。このことによって、ウクライナが「私たち」の中に深く入ってきました。

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 ポーランドだけでなく、ハンガリーの聖心のシスターもウクライナから避難してくる人々の支援に参加しています。世界中の聖心で応援し、ローマの聖心会本部では支援のための募金を始めています。日本の私たちもできることを探しましょう。

 私は皆さんに二人の女性についてお話ししたいと考えてきました。二人ともウクライナに接する国ベラルーシの出身で、スヴェトラーナという名前です。そして、二人とも真実を求める自分の信念のためにベラルーシを出て、他の国で生活しています。一人目はスヴェトラーナ・アレクシェービッチ、もう一人はスヴェトラーナ・チハノフスカヤです。アレクシェービッチはノーベル文学賞を受賞した作家で、ウクライナのチェルノブイリの原発事故の後に、事故の被害に遭った多くの人を取材して人々の声を聴き取り、被害の真実を書き表しました。また、「戦争は女の顔をしていない」という本では、ソ連軍の女性兵士たちの過酷な現実を女性たちの話を丹念に聞くことで表しました。どちらも人々の中にある重い真実を明らかにする本でした。アレクシェービッチは、自分の活動は自分のおばあさんの教えに基づいていると言っています。それは人を敵・味方として、国籍によって分けて見てしまうのではなく、一人ひとりを人間として見るというものです。アレクシェービッチのおばあさんはウクライナの出身で、アレクシェービッチにとってウクライナはとても大事な国なのです。しかし、彼女の国ベラルーシはロシアに友好的な国であると同時に、長く独裁政権が続いて言論の自由がなく、アレクシェービッチは国外で生活しながら真実を求め続けているのです。

 もう一人のスヴェトラーナ・チハノフスカヤは、2020年にベラルーシで大統領選挙があったときに立候補した女性です。それまで政治経験はありませんでしたが、ジャーナリストをしていた夫が立候補を表明した後に政府に拘束されてしまったので、夫の代わりに立候補を決断しました。チハノフスカヤは多くの支持者を得て、国全体に自由を求める大きな動きを生み出しましたが、現大統領の独裁政権に太刀打ちすることはできませんでした。それで国を出る決断をして、ベラルーシのために活動を続け、今はウクライナのために平和を求める活動をしています。

 二人とも真実を求めて生きる女性です。彼女たちは自分の中の問いを大切にしています。何がほんものであるか、大事なことであるか求め続けています。簡単に答えがみつかる、正解のある問いではありません。様々な情報がある中で、何が真実を伝える、正しい情報であるか自分で考え、見極めていかなければなりません。様々な意見や立場、考え方がある中で、本当に大事なものを判断しなければなりません。自分の出遭う一つひとつのことをていねいに考えています。自分の中の問いを見失わず、正直に追求し、ほんものをみつけようと探究しています。このように真実を求めて生きる、力強い女性たちが世界中にいます。

 皆さんも一つひとつの学びを自分の中で丁寧積み重ねて、自分の問いをみつけ、問いを追求していく姿勢を自分の中に作っていってください。

 学校生活でしっかり学んでください。今年度の皆さんの高等科生活が実り多いものとなることを心から願っています。行事やクラブ活動でも存分にしてほしいと願っています。楽しいこと、自分の好きなことにも充分時間を使ってください。同時に、1日のうち何分間かは必ず、世界の平和のためにも時間を使ってください。ニュースを見る、新聞を読む、SNSで情報を得るなど色々な方法があります。世界がどのような方向に向かうのか、見定める心を自分の中に育ててください。皆さんが将来生きていく世界です。「私から私たちへ」の心で世界の人々と共に歩みましょう。

 「何か一つのことに本気で向き合い、取り組むことで初めて感じられること、考えられることがある。」「すぐに結果が見えなくても、ひたむきに努力すること。小さなことに誠実であることは、大きなことに誠実であること。」これらは以前皆さんからいただいたお便りを振り返って、改めて大切だと感じた言葉です。このような姿勢も心にとめて進んでください。

 今回の聖書朗読の箇所は、互いに愛し合うようにと教えています。「私から私たち」への心です。この言葉も心にとめて進みましょう。

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