校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月17日 初等科卒業式

2022.03.19

 6年生は卒業式を迎え、新たな生活への希望をもって初等科を卒業しました。今年は保護者と5年生が見守るなか、一人ひとり卒業証書を受け取ることもできました。春からの中等科生活が楽しみです。

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 初等科ご卒業おめでとうございます。

 小学校の6年間は大きく成長する期間です。頭も身体も心も1年生のときはとても小さく、幼かった皆さんが、今は様々な思い出をもってここにいます。その思い出の中でとても思いがけないことの一つは、セカンドステージになった5年生をコロナウイルスの一斉休校で始めたということかもしれません。それ以後の2年間、これまで誰も経験したことのない日々を過ごしてきました。学校生活では残念ながら実現できなかったこともありましたが、色々な工夫をして、これまでにない新しいものもたくさん経験してきました。オンラインや動画で行事をすることも普通のことになりました。6年生を送る会はその一つでした。各学年・各教室をオンラインでつなぎ、皆の心を一つにしました。そのようにして、今年の学校目標「希望の作り手になる 変化を生み出す 変容を生きる」を一つ実行できました。私たちは困難の中でも新たなものを生み出し、変化を生み出して、心の底から変わっていくことができます。これを初等科生活の中で実感することができたのは大事なことです。そして、皆さんは初等科を卒業して、中学生になっていきます。

 これから皆さんはまた新しい状況に立って新しいことを学び、新しいことを生み出していきます。これから皆さんは一人ひとり自分らしさをみつけ、それぞれが違った良さのある人になっていくでしょう。一人ひとりご自分の中に神様からいただいた、自分の特別な何かよいものがあります。それが何なのか見つけていってください。もしかすると、もうこれだというものをみつけている方もいるかもしれませんが、まだよくわからないという方もあるかもしれません。まだ見つけていないからだめだとか、遅いとか、いつまでにみつけないとだめだということもありません。必ず誰でもすてきなものを持っていて、それをみつけることができます。これから見つけていくのはとても楽しみなことです。

 そこで、きょうは自分の特別なものをなかなか見つけることができなかった一人の人の話をします。その方はすてきな声の持ち主でした。バスや電車に乗ると、駅の名前や乗車中の注意などのアナウンスがあります。いつもしっかり聞いていますか?すてきな声が聞こえてくると励まされるものです。これはフランスで日本のJRにあたる鉄道会社の車内や駅の放送を担当したシモーヌという人の話です。私より少し年上の女性です。

 シモーヌは子どものときには、全然自信がなかったそうです。勉強もあまりできなかったし、おとなしくて目立ったところがありませんでした。ところが13歳のある日、授業中に詩の朗読をすることになり、読んだところ、教室中がしーんとなって皆が耳を傾けてくれました。「とても上手」、「とてもすてきな声」と先生も皆も言ってくれました。とてもうれしいことで、将来女優になりたいと思うようになりましたが、誰も応援してくれません。また自信がなくなってあきらめてしまいました。学校を卒業したら、ラジオ放送局に勤めることになりましたが、秘書の仕事です。まわりは優秀なジャーナリストばかりで、自分はつまらない人間だなと思ってしまいます。しかし、頼まれれば何でもやって、楽しく仕事をしました。あるときほんの少しだけ原稿を放送で読み上げる仕事をしたら、大好評ということもありました。さて、会社でラジオのアナウンサーが募集されることになりました。やってみたい!と思って応募しますが、たくさんの応募者がいて気後れしてしまいます。「きっとだめだ」と思っていると、思いがけず合格。ラジオのアナウンサーとなって仕事を楽しく続けました。そして、またあるとき、鉄道の駅のアナウンスの仕事があることを知り、引き受けることにしました。

 年に数日間スタジオにこもって、フランス全国の駅のために放送を録音します。それを40年続けました。決まった事柄を録音するだけのとても地味な仕事です。それでも楽しかったのだそうです。駅の名前を読みながら、その駅にいる人のことを想像しました。旅行に行く人、学校や仕事に行く人など想像してアナウンスを読みました。そして、いつも読むときは微笑むようにもしていました。微笑みは声からでも必ず伝わるからと考えていたからです。しかし、「駅のアナウンスなんて、人はちゃんと聞いているのかしら、きっと聞き流しているに違いない」とも思っていたそうです。ところが、ある日、駅にいたら、男の人がタバコに火をつけようとしていた時に「駅は禁煙です」と自分の録音したアナウンスが流れると、その男の人はびっくりしてタバコを消したので、人はちゃんと聞いてくれていたとわかったのです。これを知ってとてもうれしかったそうです。いつのまにかシモーヌの声はだんだんと評判になっていき、フランス全国に招かれて、鉄道で働く人や色々な地方の人に出会うことになりました。たくさんの人に自分の声が喜んでもらえることを知り、自分に自信を持つことができました。

 シモーヌは「自分の仕事は目立たない。人の役に本当に立っているのかしら」と感じていましたが、そんなことはありませんでした。心を込めて読んだものから、心が伝わっていたし、微笑みも伝わっていました。子どものときからずっと自分の声はすてきなものだったのだ、とわかったのはずっと年をとってからでした。そして、50歳になってから、女優になりたいという子どもの時の夢にもどることにします。自分の劇団を作ったのです。シモーヌは自分の人生をまわり道とは思っていません。思いがけないすてきな出会いにたくさん恵まれたと感じています。そして、もし、子どもの時の自分に出会ったら、「あなたは大丈夫。あなたにはすてきなものがある。いつか必ず開花する」と言ってあげたい、と言っています。

 とてもすてきな人生です。子どもの時には人と比べてあきらめてしまったことが、いつの間にか自分の人生を導き開いていく、大きなことにつながっていきました。始めから思い通りでなくても、一つひとつのことを一生懸命にやっていたら、自分のほんものになっていきました。大事なことは、人と比べないこと、心をこめて取り組むこと、やってみたいことに本気でチャレンジすることです。それが神さまからいただいたものを大切にすることにつながります。

 これから皆さんは一人ひとり自分をより深く発見していくでしょう。いつも思い通りにうまくいくとはかぎりません。それでも、一つひとつのことを誠実に取り組んでいってください。そうして、神様から頂いた自分だけのすてきなものをしっかりつかんでください。それを自分のためだけでなく、まわりの人のためにも輝かせてください。皆さんは世界に変化を生み出し、希望を作っていくことになります。

 今、ウクライナのことを考えて世界は心を痛めています。そんな時だからこそ希望をもって歩み、変化を生み出す人が必要です。皆さんは神様からいただいた自分の宝物をみつけて大切に磨き、まわりの人のために使っていってください。そして、変化を生み出していってください。

 

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