校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

10月21日サードステージ 感ずべき御母の祝日

2021.10.21

 「感ずべき御母」を描いたポーリーヌ・ペルドゥローは、老年のマリアの絵を対になるものとして描いています。その絵を上に示しました。この珍しい絵柄を今年は特に取り上げ、サードステージ生と共に考えてみました。地味な色合いの絵ですが、込められている象徴的な意味は深いものがあります。今回サードステージの祝日の祈りは教室への動画配信となりましたので、サードステージ生だけに特別にこの絵のカードを配り、じっくり見てもらいました。

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 感ずべき御母の祝日 おめでとうございます。

 サードステージの皆さんとは動画でのお祝いとなりますが、サードステージの皆さんだけに特別にご絵をさし上げることにしました。皆さんの手元に配っていただきました。このご絵は「老年」、年老いた姿の「感ずべき御母」と呼ばれている絵です。確かに、色合いが地味な絵です。

 「感ずべき御母」の絵は、毎年説明されているように、ローマのトリニタの聖心でポーリーヌ・ペルドゥローが壁画として描きました。この絵の描かれたトリニタの聖心は、古い修道院の建物を聖心会が受け継いだもので、すでに美しい壁画や天井画が描かれていた部屋がいくつもありました。その中でわざわざマリア様の絵を新たに描こうというのですから、聖心の特色の明快な特別なものでなければという意識は強かったでしょう。「感ずべき御母」の絵は聖心の理想を端的に盛り込んだ、シンボリックな絵として描かれています。マリア様の生き生きした人間的な姿というよりは、魂・知性・実行力の3つのシンボルを備えて、祈りの雰囲気をたたえた一瞬を切り取ったような絵と感じられます。しかし、強く心に残る、静かなインパクトも備えています。これからはばたいていこうとする、皆さんの年代に相応しい、凝縮された力も感じられます。それが、聖心の生徒たち、シスターたちに好まれた理由だと感じます。

 ポーリーヌの生きた時代には今のように写真もデジタル技術もありませんから、絵と言えば描くしかありません。ポーリーヌは各地の聖心から頼まれて、同じような感ずべき御母の絵を何枚も描いています。この学校のブラウジングルームにある大きな絵は模写です。日本の聖心姉妹校にはそれぞれ模写の「感ずべき御母」があります。

 さて、ポーリーヌは、ある時、年老いて人生の終わりを前にしたマリア様の絵を、この「感ずべき御母」の若いマリア様の姿の対になるものとして描きました。その絵を見てみましょう。

 マリア様は「感ずべき御母」では正面を向いて座っているのに対して、こちら絵では斜め前を向いています。服装は地味な色合いです。右の手には織り終えた布の最後の糸を切るためのハサミを、左の手には機織りで使う「杼」という糸をわたすための道具を持っています。人生の長い年月が機織りの仕事になぞらえられています。織られた布はずいぶんな長さになって、ていねいに巻き取られています。模様はあるのでしょうか、白い布のように見えます。本はどこにあるのでしょう。左側の後ろの方に、カゴに入れた本が小さな台の上にあり、そのとなりに糸とりのための棒が置いてあります。どちらももう使い終えて、片づけてあるかのようです。ゆりの花はと言えば、右手のずっと奥に見える部屋の中においてあるのが見つかります。そして、目をこらして良く見ると、百合の花の花瓶の右側には、白い台の上に何かが置いてあります。見えづらいですが、それはご聖体の器のように見えます。花瓶の左手にも何か立っています。それはイエスが架けられた十字架を模したもので、十字架の上に白い布を掛けておくのは、イエスは十字架から取り下ろされ、その後に復活されたことの象徴として絵に描かれる形式です。こうして考えてみると、この奥の部屋はマリア様の心の中の様子ではないかと思われてきます。十字架に掛けられて亡くなり、復活されたイエスのことを大切に思い、祈るマリア様の心の内です。

 もう一度、マリア様に目を戻して顔を見てみましょう。目を大きく開き、少し上を見ているようです。穏やかな、明るい表情、生き生きした姿に見えます。

 若々しい「感ずべき御母」の姿には、若々しさのうちにも厳粛な慎ましさが感じられますが、こちらのマリア様の姿はもっと人間的で、自然です。人生の始めのマリア様には、これから大きなことを引き受けて生きていくという謙虚な姿勢や、内面の力強さが強調されているのに対して、老年のマリア様には、様々なことを経験しながら神様とイエスと共に歩み、自分の人生は神様と共にあるという確信に満ちた様子と、ハサミで自ら糸を切る行動からは力強さが汲み取れます。人生の終わりに、人生の様々なことを生き抜いた、やり遂げましたという自信と、神に向かう明るさや喜びを表しているかのようです。

 皆さんは今、若々しい「感ずべき御母」の年代を生きています。これからの日々に何が待っているのか、魂・知性・実行力を備え、祈りの姿勢で受けとめ、生きていきます。「感ずべき御母」と共に希望をもって生きていくとき、この老年のマリア様の姿が表しているように、それぞれ人生という立派な織物を織り上げ、道のりの最後には、神様と共にいるという実感と静かな喜びが待っているでしょう。

 皆さんに先週お知らせした朝日地球会議でマイケル・サンデルと福岡伸一の対談を聴くことができました。これからコロナ後の世界において重要なことについて話され、3つのキーワードがありましたが、それらは、謙虚さと調和、共生の考え方でした。「感ずべき御母」から私たちと学ぶことと重なっています。

 ポーリーヌは、この老年のマリア様の絵を通しても、聖心の生徒たちに生きることの素晴らしさを教えてくれています。

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