校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月6日 高等科卒業式

2021.03.06

 春の訪れと共に12年生が学院生活を終え、高等科卒業式を迎えました。今年の学年カラーは緑で、その色合いにふさわしく、生き生きとしたいのちに満ちた学年として卒業して行きました。これからの活躍を心から祈りながら、はなむけの言葉をおくりました。

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 緑の学年の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今日皆さんが卒業の日を無事に迎えられたことを本当にうれしく感じ、ご一緒に感謝したいと思います。

 一年前のこの季節に、私たちは新型コロナウイルスの感染流行という全く新しい出来事に世界全体で遭遇し、皆さんは12年生という聖心での学びの最後の一年間を、この混迷の中で始めることになりました。皆さんの聖心での学校生活のうち、この一年間の日々は特に忘れがたいものとして記憶され続けるでしょう。それまでのどの学年とも異なる新しい経験がたくさんありました。これからきっと何歳になっても、世界のどこででも、2020年については誰とでも話せる共通の話題となっていくでしょう。その一年間を緑の学年として、この仲間と共に過ごし、学院の最上級生としてリーダーシップをとって、未経験の地を進んできました。皆さんは、誰も答えをもっていない思いもよらない状況の中で、秘めていた底力を発揮し、大きく開花させて、しっかりした手応えをつかんでこられたと感じます。この学校で、この学年の仲間と共にあってこそ実行できたこととも言えるのではないでしょうか。制限の多かった最終学年の学校生活とはいえ、皆さんのこのような成長ぶりを見届けて送り出せることは大きな喜びです。緑は地球を被う緑の色、いのちの色、希望の色です。その色柄にふさわしく、皆さんは下級生たちを明るく引っ張ってくることができました。この経験は皆さんの未来への堅固な土台です。

 これから皆さんは新たな世界へと出発します。この世界の行く末は、以前にも増して不透明です。しかし、一つ明らかなことは世界の歩みは大きく変わらざるを得ないということです。私たちは人間の力でコントロールできない、地球のいのちの大きな関わりの中にいることをこの一年で知りました。人間の思いを越えた、いのちの大きな動きの中に、人間も地球のあらゆるいのちの一員として生きています。人間の営みは続いていきますが、何を大事にしていくのか、これから大きく変化するでしょう。もの、ひと、自然との関係のとらえ方が変わります。この変動の時に、しっかりした考え、心のあり方をもつ女性として主体的に生きていってほしいと強く願っています。いのちに真剣に向き合わなければならない、これからの世界と日本の社会の中で女性の果たす役割は重要です。

 今日は一人のアメリカ人女性の生き方を紹介し、皆さんのこれからの指針となるように考えてみることにします。その女性は昨年9月に87歳で惜しまれて亡くなった、ルース・ベイダー・ギンズバーグです。アメリカ合衆国連邦最高裁判事を勤めました。多くの人々から尊敬と親しみを込めて、名前の頭文字をとってRBGと呼ばれました。RBGは1933年生まれで、大学で法律を学び、弁護士となりますが、卒業当時、1950年代のアメリカではたとえ優秀であっても女性を雇おうとする弁護士事務所はありませんでした。ましてやRBGは結婚して、子どももいましたので、就職の道は閉ざされていました。学業を続け、大学で教職に就くなどの回り道を余儀なくされます。しかし、RBGは1970年代以降、人権や女性の権利に関わる大きな裁判に携わるようになり、注目されていきます。アメリカ社会においても女性の権利は男性と平等であると考えられていませんでした。女性は保護されるもの、との一方的な考え方によって女性自らの主体的な活動の道は閉ざされていたのです。しかし、RBGはそれまで当然と見なされていた社会の考え方を変え、女性の立場を法的に確立し、性差別を撤廃し、女性の地位を向上させる大きな働きをしました。その活動はいつも綿密で徹底した学びから得たゆるぎない確信に支えられていました。大変な努力の人でもあったのです。アメリカ合衆国連邦最高裁判事となったのは1993年、60歳の時でした。

 RBGは若い時に大変苦労しています。ほとんど道が閉ざされているように見える時、自分を支えた力の一つは母の教えだったとRBGは回想しています。それは自立すること、そして「レディになりなさい」ということでした。このレディは単におしゃれな女性ということではありません。RBGによれば、「エネルギーを奪うだけで役に立たない感情には流されない女性」ということです。怒りや嫉妬、後悔などの感情は自分を高めることなく、袋小路に追い込むだけです。レディとは怒りに任せて言い返したりせず、冷静に、理解していない人を教え導くように応える女性としています。これは人生を切り拓く大きな知恵です。RBGはレディとして多くの課題に立ち向かい続けました。そして、RBGは本当にやりたいことであればなんとかして実現する方法を探す、必ず方法はみつかるという信念の持ち主でもありました。女子だからできないというものはない。あってはいけない、そのように考えていました。若い女性へのアドバイスとして、とにかくやってみなさい。努力を惜しまなければ夢は実現する、と言っています。そして、何をするにしても、自分以外の人に向けて働きなさい、恵まれた才能と受けてきた教育を人々の暮らしを良くするために使いなさい、とも言っています。

 写真を見るとRBGはおしゃれな方と感じます。そして、その眼差しからは鋭い知性と心の深さ、豊かさが伝わってきます。RBGは信念をもって、理解がないところに理解を生み出す努力を続けました。むやみに怒らず、丁寧な説明に努めました。RBGの生き方は自分の今いるところからあきらめずに着実に歩む、と言い換えることもできるでしょう。

 RBGはユーモアを解する人でもありました。困難な状況を生きるにあたって、ユーモアは欠かせません。私たちもこの一年間を生きながら、ユーモアのある笑いがどれほど大切であるか深く感じてきました。ユーモアは困難を乗り切る大きな助けです。そして、ここでRBGのお母さんの知恵に私から一つ加えさせていただきたいと思います。それは笑いをコントロールすることです。レディとしてネガティブな感情だけでなく、笑いにも注意を払ってください。何について、いつ笑うのか。何かをごまかしたり、人を傷つけたりする笑いもあります。女子校から巣立ち、社会に出て行く今、皆さんが直面する社会の現実が女性に対していまだに厳しいことは、先日のオリンピックに関する委員会の出来事でも明らかです。ユーモアはその厳しさを上手に乗り切る手立てとなるでしょう。賢明に笑い、微笑む。そして、明確にすべき時は言葉にし、声を上げる。いつもほんものを求める人であってほしいと思います。

 もう一人紹介したい女性がいます。若いアメリカ黒人女性詩人アマンダ・ゴーマンは、この1月のバイデンアメリカ大統領の就任式で自身の詩を朗読しました。混迷するアメリカの現実を見つめて、その詩は「一体、この終わりのない闇の中でどこに光がみつかるのか」と始まりますが、最後の3行で、「光はみつかる、もしそれを見ようとする勇気があるなら。もしそれに自分がなろうとする勇気があれなら。なぜなら光はいつもあるから」と締めくくられています。光は希望です。皆さんは「希望の作り手になる」ことをこの学院での最後の一年に目指してきました。これからも勇気をもって希望をみつけ、自分自身が希望となっていってください。希望は勇気をもって見渡せば、必ずみつかります。そして、自分自身が希望の光となることができます。

 世界は皆さんが希望の作り手として共にあることを、あらゆるところで待っています。皆さんがこれからますます、緑の学年として大きくいのちを育み、一人ひとりがご自分らしく、レディとして生きていってくださることを心から願っています。学院はいつでも皆さんのために祈っています。

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