校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

5月19日おもしろい本を読みましょう(60)ヨナタン・ヤヴィン「アンチ」

2020.05.19

 皆さんにはイスラエルはなじみ深い場所でしょう。聖書の地、イエスの生きて、活動した地です。と言っても、それは2000年ほども前のことです。今のイスラエルについてはどのようなことを知っていますか?今日、紹介する本は現代のイスラエルに生きる少年が主人公です。14歳なので、セカンドステージです。ニックネームはアンチ。おもしろい名前です。普通、「アンチ」と言えば、何かに反対する「反~~」という意味になります。だから、「アンチ」はもしかしたら反逆児?それとも「とんちんかん」?

 現代のイスラエルはどのような所なのでしょうか。新聞などに見るイスラエルのニュースからは、イスラエルと隣接するパレスチナの対立や衝突などの紛争が頻発する、イエスの教えと異なる困難な現実が伝わってきます。イスラエルの国は長い歴史の中で様々な困難な出来事を経験しています。そして、今のイスラエルが建国されたのは1948年ですから、新しい国です。その建国に至るまでにも複雑な道のりがあり、今でも解決されない問題が生じています。とても複雑な成り立ちの国です。その国の中高生たちはどのような生活をしているのでしょうか。イエスを通して、イスラエルという名前はよく耳にしていても、今のイスラエルについては知らないことばかりです。

 アンチは思春期を生きています。なんだかよくわからない、整理できない気持ちをたくさん抱えています。良くないとは思いながら、お母さんに反抗的な返事をしてしまうときがあっても、それはもう止むに止まれずそうなってしまうのです。どうしたら良いかわからないから。そんなアンチの気持ちのことを、きっと皆さんなら「分かる!」、「私もそうかも」、「だって、やっぱりそうだもん」と共感できるかもしれません。アンチは特別な動物を飼っています。それは「ハラネズミ」。ハリネズミのように針がいっぱいで、それがお腹のなかで動き始めると、ムカつく気持ちがいっぱいになって、すごい言葉が口から出てきます。また「ハラネズミ」が出た!と感じても、それを止めることはできません。皆さんの中にも「ハラネズミ」がお腹にいる人はいませんか?

 大人は本当のことを言ってない、分かったふりをしているだけ・・・。アンチは色々感じています。特に親戚のおじさんに不幸なことがあってから、家族もみんなバラバラ、家にいてもつまらなくなりました。勉強も意味がない。その時に、アンチはすごい友だちとラップという音楽に出会い、新しい世界に踏み込んでいきます。そこは、かっこいい言葉の世界。しかし、気がついたら、自分を探す言葉の世界でした。

 ラップミュージックの世界は生易しくはないものだとこの本を読むとわかります。ラップは言葉のマジック。でも、ほんものになるには、たとえ14歳だって言葉を使いこなせなくてはと、アンチと一緒にドキドキしてしまいます。ハラネズミのムカムカトゲトゲはアンチの中で暴走し続けるのか、それとも、アンチと仲良くなるのか、ハラネズミが出てくるたびにもドキドキしてしまいます。ガールフレンドとの出会い、仲間との対立、お父さん、お母さんとの関わり、コンテストでの闘い・・・数々のドキドキさせるエピソードを通して、アンチは自分の言葉をみつけます。皆さんもアンチと一緒に、自分の中に眠っている言葉を見つけられるかもしれません。今のイスラエルにはこんな子たちがいるんだ、そういう発見もできます。

 この本の原書は現代のヘブライ語で書かれています。ヘブライ語でも、イエスの時代の言葉とは異なります。すぐれた訳がアンチの言葉のパワーを日本語で再現してくれます。

ヨナタン・ヤヴィン作 鴨志田聡子訳 「アンチ」 STAMP BOOKS 岩波書店 2019年

 

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