校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

5月20日おもしろい本を読みましょう(61)広瀬浩二郎 嶺重慎「さわっておどろく!点字・点図がひらく世界」

2020.05.20

 今回の緊急事態宣言により、各地の博物館や美術館、図書館なども長期の臨時休館となっています。図書館によっては、郵送で本の貸し出しをしているところもあるようです。また、地域によっては一部の図書館が再開されて、本を求めて人が訪れているとのことです。とてもうれしいことです。休館中の博物館や美術館では、そのWebサイトを訪ねてみると、それぞれに特色ある工夫がなされています。展示物の写真による解説、動画を使った詳しい説明、子ども向けのコンテンツなど、休館中のサービスとして家でも楽しめるものがあります。もっと早く気がつけばよかった!と思うほどです。皆さんもコンピューター上で博物館に行ってみましょう。中でも、上野にある国立科学博物館の「かはくVR」はすばらしいです。マウスの操作を上手にしないと目が回りそうですが、色々なものを自由に見て回ることができます。もう一つのお薦めは、大阪にある国立民族博物館の「みんぱくヴァーチャルミュージアム」です。科学博物館は自然界について、こちらでは人が歴史の中で作って、使ってきた様々な物品を見ることができます。説明も読むことができ、楽しく学べます。

 この国立民族博物館の准教授の一人が広瀬浩二郎さんです。広瀬さんは13歳のときに視力を失ってしまわれますが、日本の宗教の歴史についての研究家であり、点字や点図で読書し、学ぶ「触常者」です。皆さんは点字に触れたことがありますか?ずっと以前に、点字の学習をしている生徒たちが点字の作品作りをして、その作品を視覚に障害のある方のところにお持ちしたことがあります。作品をお渡しすると、ていねいに指で触って読んでくださり、「とても美しい光景ですね」と感想を述べてくださったので、とても驚いた記憶があります。生徒が作成したものがきちんと読めるものであったのはうれしいことでしたが、それだけでなく、「美しい光景」という目で見て感じたり、理解したりするものと私が考えていたものを、目で見なくても感じ取って言葉にしてくださったことが、私には大変な驚きだったのです。その方の豊かな内面世界に触れて、その時以来、視覚障害の方々に対する考え方が変わりました。目で見ることがすべてではない。点字については、この学校でも8年生が総合的学習の中で学んでいます。

 「さわっておどろく!」の本は、表紙を開くと点字と点図で表紙の一部を表現したページがあります。特に点図として表されている表紙にある絵は、触ってみるとおもしろいです。触常者の方はどのように読み取るのでしょうか。日頃目で見ることに慣れている私のような「見常者」には、なかなかイメージがつかめません。点字・点図の世界は不思議に満ちています。この本には点字と点図の世界がわかりやすく説明されています。点字・点図ばかりではありません、この本は「触る」ということについて新しい世界を開いてくれます。触常者である広瀬浩二郎さんが自ら語ってくださることがとてもおもしろいです。異なるものの感じ方の世界が開かれます。

 広瀬浩二郎さんの国立民族博物館での仕事の一つは、展示物に触って楽しみ・学ぶ「ユニバーサル・ミュージアム」の企画でした。普通の博物館では、展示物は貴重なので、決して勝手に触ってはいけないことになっています。ガラスケースの中に入っていたり、レールの向こうに展示してあったりして、むやみに近づいてもいけません。時々、本当に見たいものがあると、できる限り近づいたり、背伸びしてみたり、しゃがんでみたり、とにかく見て、学ぶことに集中します。ところが、ユニバーサル・ミュージアムの企画では、触ってもよい展示物を特別に用意して、見学者が触って学び楽しむことを許可しました。皆さんだったら、どんなものに触ってみたいでしょうか。広瀬浩二郎さんが中・高校生の時の美術の先生は、美術の作品、特に彫刻作品は触らなければわからない、と言って作品に触ってみることを大奨励されたそうです。彫刻作品に触ってみたら、きっと色々なことを感じるに違いありません。

 みんぱくヴァーチャルミュージアムはとてもよくできているものですが、目で見て楽しむものなので、触ってみることはできません。広瀬浩二郎さんは残念に思っていらっしゃるかもしれません。「さわっておどろく!」を読んで、新しい世界に開かれてください。この本では、点字の部分を広瀬浩二郎さんが、点図の部分を嶺重槙さんが担当して書いています。

 広瀬浩二郎さんは京都大学で歴史を学ばれ、視覚障害者として、日本の歴史の中の障害者について研究することを目指されました。そこから、「共生」について大事な視点を学ばれます。視覚障害者と見常者が共に生きるとはどのようなことか、広瀬浩二郎さんと共に考えてほしいと思います。

広瀬浩二郎 嶺重槙 「さわっておどろく! 点字・点図がひらく世界」岩波ジュニア新書 2012年

次の本では、ユニバーサル・ミュージアムの取り組みについて詳しく知ることができます。なぜ「ひとが優しい」なのか考えてください。

広瀬浩二郎編著 「ひとが優しい博物館 ユニバーサル・ミュージアムの新展開」 青弓社 2016年

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