校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月29日おもしろい本を読みましょう(22)白川優子「紛争地の看護師」

2020.03.29

 世界中で新型コロナウィルス感染症の流行拡大に伴い、各地の人々の様子が報道されています。特に、イタリアを始めとする医療現場の厳しい状況を目にすると、人々のために祈らざるをえない気持ちになります。日本でも、医療に従事する方々は緊迫した状況の中で活動されていることでしょう。普段の生活でも医療に携わる仕事は、いのちと関わる責任の大きなものですが、今は緊急事態として大きな任務が課されています。

 今日紹介する本は中高生向けです。白川優子は「国境なき医師団」に属する看護師です。紛争地と言われる厳しい現場に派遣されていきます。この本には、紛争地での看護師としての仕事、派遣先の厳しい状況、そこで出会った人々のことが自身の経験をもとにつぶさに書いてあります。紛争地における過酷な現場は、平時の日本にはない危険と物資の不足、多忙さが毎日の現実です。その中で、一人の人間として生きようとする姿勢が伝わってきます。国際的な組織の一員として、文化的背景の異なる色々な国籍の人々と共に働く中で、感じ、考えたことも書かれています。冷静に現実をとらえ、出会った人々との交流に心を動かされ、解決のない状況や困難に直面して時には悲鳴をあげながらも、看護師として生きていく姿はとても力強いものがあります。

 どのようにして看護師をめざすことになったか、どのようにして「国境なき医師団」に属することになったかも書かれています。自分の将来について考えている皆さんにはきっと参考になるでしょう。国際的な課題に取り組むには、様々な道筋、様々な仕事がある中で、この方は看護師という仕事を自分の役割として生きています。看護師の仕事は、目の前にいる患者をケアすること。限られた数の患者しか接することはできないかもしれない。たとえばジャーナリストのような、広く人々に訴える力のある仕事もあるかもしれない。しかし、この方は自分のできることはこれだという信念の持ち主です。そして、ほんものの仕事の力は、たとえばこの本を通じてのように、現場を超えて人々へ訴える力を持つものであることも教えられます。型にはまらずに、自分のほんものの仕事をみつけることが大切だということを考えさせられます。

白川優子 「紛争地の看護師」 小学館 2018年

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