校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月16日 中等科卒業式

2023.03.18

 中等科卒業式を行いました。本校は4・4・4制による12年間一貫教育を行っていますが、ステージと共に、初・中・高の区切りも大切にしています。好天に恵まれ、晴れやかな日となりました。

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 中等科卒業おめでとうございます。

 皆さんにとってこの3年間はとても大きな変化であり、思いもよらない成長の時期となったことでしょう。新型コロナウイルスの出現によって世界が大きく動かされた時に、皆さんの中等科生活は始まりました。そして、去年の2月にはウクライナで戦争が始まり、また世界は大きく揺るがされました。その中で皆さんは中等科生として学び、模索し、様々な経験をし、自分の考えを深めて今ここに立っています。学習を深めてきたことは言うまでもありません。

 中等科を終えるにあたり、皆さんの心に一番深く残っていることはどのようなことでしょうか。私は去年の夏に、皆さんと一緒に奈良に研修旅行に行くことができたことがとても心に残っています。久しぶりに旅に出て、日本の古い歴史と文化に触れて、日頃の学校生活では味わえない、何か大きなものを感じ取ることができたのではないかと思います。奈良の空は大きかった、と私は思い出しています。皆さんはどうでしょう。

 皆さんは中等科生活3年間で自分というものの意識を深めているでしょう。今学年は「私から私たちへ」という目標をもって、視野を広げてきました。自分のことだけでなく、コミュニティを大切にすることも心がけてきました。

 同時に、高校生活に向けて各自が自分で選ぶという時期も通ってきました。自分で考えて選ぶことには責任を伴います。その時に大事にしたことは、皆さん一人ひとりにとって、これからの日々を切り拓いていく土台や軸になっていくことでしょう。まだ自分の中でぼんやりしたものだったり、表現しきれていないものだったりするかもしれません。それはこれから成長していく種のようなものです。その種を見つけるのが中等科の段階で、周りからたくさんの刺激を受けながら、それをご自分でもっと明確なものへと言葉や行動にして育てていくのが、高校生の段階とも言えるでしょう。これからどのようにも成長していく可能性をもつその種を大きく育ててほしい、深く根を張って、しっかりしたものにしてほしい、皆さんのためにそのように願っています。

 大きな可能性をもった皆さんに、種を育て考える材料として、私の出遭った一冊の本を紹介します。ギリシアの経済学者ヤニス・バルファキスという人が書いた「父が娘に語る経済の話」(ダイアモンド社2019年)という本です。この本は10代の自分の娘に語るつもりで書かれています。9年生として社会科で公民を学んだ皆さんにふさわしい本だと思います。バルファキスは一時期ギリシア政府の財務大臣も務めていましたので、学者と言っても大学で研究しているだけの人ではなく、社会の現実、色々異なる立場の人々の生活の実際に接しながら、経済について考えている人です。この本が書かれたのは10年ほど前ですが、この本が投げかける問いは今も力を失っていません。

 この本はこのような問いで始まります。「なぜ、こんなに『格差』があるのか。」皆さんもこれは感じているでしょう。なぜ、世界には豊かな国と貧しい国があるのか、日本の中でも、お金のある人とそうでない人がいる。これは現実のことで、当たり前のことにも感じられます。しかし、バルファキスは「当たり前に疑問をもて」と言います。格差を当たり前だと思わないで、とこう続けています。「いま、10代の君は格差があることに腹を立てている。もし、ひどい格差があっても仕方がないとあきらめてしまいそうになったら、思い出してほしい。どこから格差がはじまったのかということを。」こうして、どのようにしてものやお金が動くようになって、世界が経済によって動かされるようになったかが説明されていきます。10代の娘にわかるように書かれた本ですから、説明はシンプルです。難しい経済の用語はほとんど出てきません。私が皆さんと一緒に注目したいのは、「10代の君は格差があることに腹を立てている」という点です。世の中の矛盾やうまく行っていない事柄に気づいて、腹を立てたり、疑問をもったりすることが大事にされている点です。皆さんも不公平や格差を感じて、いったいなぜ?と思ったり、怒ったりすることがあるでしょう。バルファキスは父親として娘にわかりやすく、経済の仕組みを説明しますが、その説明に納得しなくても良い。むしろ、色々な説明の仕方があることを示しながら、選ぶのはあなた自身、どうするかはあなたの考え方、生き方による、としています。つまり、人に言われて整理して納得してしまったり、頭で理解したりするだけではなく、心で感じているものも大事にする。なぜなら、そこに少しずつでも世の中を動かしていく力があるからです。

 この人は不満を感じることも大事にします。不満というのは、自分の望みがかなえられないことなので、満足を得るために葛藤したり、衝突したりすることになります。葛藤も衝突もネガティブなものですが、葛藤することで考える力が生まれ、衝突を経験することで人格が磨かれるとしています。うまく行かないことは嫌なものですが、それがあるからこそ、本当はどう思っているのかと自問自答して、考え方が広がるとしています。単に満足しているだけではほんものの幸福ではない、とこの人は言っています。衝突や葛藤は成長のために必要、としています。どうでしょう。

 皆さんにはほんものの幸福をみつけてほしい。ほんものとは、自分が心から納得するものです。どうぞ皆さんはご自分の心に耳を正直に傾けてください。皆さんが本当に大事にしたいことは何ですか?それをつかんでいますか?それともあきらめて、何か別のものに流されていることはありませんか?あるいは、気づいてはいるけれどまだ表現し切れていない、周りの人を気にして表していない、そのようなことはありませんか?そのような自分に対して、今すぐに解決がみつからなくても良いのです。ただ、流されず、葛藤を抱えて考え続けることが大事です。

 中等科の卒業は一つの節目ですが、皆さんの模索と葛藤は、高校生活という次の段階を経て皆さんを成長させていきます。今日は、皆さんがここまで到達したことをお祝いして、次に向けて送り出す日です。皆さんのこれからのさらなる成長を願っています。

 最後に、今日読まれた聖書の言葉を思い起こしましょう。「求めなさい。そうすれば与えられる」(マタイによる福音書7章7~12)という言葉でした。神様は私たちが主体的に求めることを待っています。ですから、どのような時も一歩踏み込んで求めてください。自分の思い通りではないとしても、必ず先が開けます。立ち止まらず、求めてください。必ず何かよいものを受け取ります。皆さんを励ます言葉です。

 9年生の皆さんにこれからのより一層の活躍を期待して、卒業のお祝いの言葉といたします。

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