校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

2月24日中高等科朝礼 視点を変える変容 昔話のユーモアと知恵

2022.02.26

 「むかし、むかし、あるところで・・・」と始まる昔話には、何か不思議な魅力があります。農村を訪ねて民話を聞き、記録する採話の活動をされている小野和子さんを取り上げたテレビ番組に接する機会がありました(こころの時間「ほんとうを探して」2022年2月13日NHK Eテレ1)。紹介された昔話の面白さに感銘を受けると同時に、「聴く」ということの深みを改めて考えさせられ、番組で紹介されていた民話を再話させていただきながら、昔話のユーモアと知恵について生徒と共に考えてみました。

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 皆さんはユーモアは好きですか?ユーモアは楽しいものです。おもしろいことを言って楽しませてくれる人がいると場が和みます。ユーモアとは、こうだ、と思っていたことを何かちょっとずらして眺め、おかしいことを見つけることです。そんなものの見方もあるのね?と気づかされる、視点を変えることで生まれるおかしみがあります。また、ユーモアは楽しいだけではなく、苦しみを乗り越える力になることもあります。

 皆さんは昔話も好きでしょうか。東北の宮城県で民話を集める活動をしている女性がいます。昔話は「昔、昔、あるところに・・・」と始まります。このような話を農家のおじいさん、おばあさんがたくさん覚えています。小さい頃、自分のおじいさん、おばあさんから聞いていた物語です。この女性はそれらを聞きに訪ねて行って、聞かせてもらいます。どれも面白い話で、知恵もあります。その一つに「猿のお嫁さん」という話があるそうです。

 貧しい家がありました。働き手もないので、田に水をひくのに猿に手伝ってもらわなければなりません。幸い田に水をひくことができましたが、猿へのお礼として3人の娘のうちの一人が猿の家にお嫁に行くことになりました。その娘は猿の家に行く途中で、猿を谷底の川に突き落としてしまいます。猿は川の水に流されながら歌を詠んで、自分が死ぬのは惜しくないが、お前を後家にするのは心残りだ、と嘆いています。しかし、娘は悲しむどころか、そんなのへっちゃらとばかりに自分のやったことを喜んでいます。娘はお嫁に行くとは言ったものの、内心ではいやだったのかもしれません。

 さて、この話を語ってくれたおばあさんはこの話がとても好きで、会いに行くと必ず喜んで話してくれたそうです。この話を聴いた女性は、猿がかわいそう、お嫁さんを残して川に流されてしまってかわいそうと感じて、おばあさんにそう言いますが、おばあさんは、そうかな、そんなことはないと、この話をとても楽しんでいたそうです。この女性はこのことを何か不思議に感じていたそうです。自分と感じ方が違っている、川を流されていく猿はかわいそうではないのかしらと感じていたそうです。すると、何回目かにこの昔話をしてくれてから、おばあさんが自分の若いときのことを話してくれたということです。

 16歳くらいの若さでよその部落からお嫁に来て、嫁ぎ先ではしきたりがとても厳しく、何につけてもやかましく言われて、何度ももう里の家に帰ろうと思ったそうです。途中まで山を下りて行きますが、やっぱり帰れない、もし帰ったら家族がみんな困るだろう、そう思って足が止まってしまいます。それで、わんわん泣いてから、また戻っていった。こんなことが何回もあったと話をしてくれたそうです。

 この話を聴いて、やっとわかったと感じたそうです。このおばあさんは、自分の苦しみをこの昔話の物語の娘に託して力を得ていたと気づいたそうです。猿をやっつけてしまう娘の話を喜ぶことで、心に力を得ていたのです。この昔話を通して自分のくやしい気持ち、悲しい気持ちを、物語の娘の「やった!」という気持ちに重ねていき、自分も力をもらう。それがこの物語を楽しむことであり、物語のユーモアの力なのです。

 昔話の知恵は深いものです。人の心を動かします。もう一つ、あるおじいさんが語ったという話を紹介します。「狼のまつ毛」という話です。

 昔、昔、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは一所懸命に働いて、なんとか家に稼ぎを持ち帰り、おばあさんに渡しますが、ちっとも喜んでくれません。そればかりか食事もちゃんと作ってくれません。あまりのことにおじいさんは悲しく、辛くなり、山にどんどん行って、山に住む狼に食われて死んでしまおうとしました。ところが、狼は「お前さんのような誠実で、正直者のいのちを取ることはできない。自分のまつ毛を一本やるから、それを自分の目にかざして人を見てみなさい」と言います。そこで、まつ毛をもらって家に帰り、それを目にかざしておばあさんを見てみると、驚いたことにおばあさんは人間ではなくメンドリだったのです。さらに、そのまつ毛をかざして村の他の人も見てみると、タヌキだったりヘビだったり、皆人間ではありませんでした。驚いたおじいさんは、それからもう村に住むことはせず、家を出て、山に行ってしまいました。

 こういう話です。狼のまつ毛とは何だったのでしょう。不思議な話です。何かを教えてくれます。さて、この話には続きがあります。この話をおじいさんから聴いた女性は、とても良い話だと感じて、これをある講演会で紹介しました。すると、しばらくしてスクールカウンセラーだという人から電話がかかってきました。そのスクールカウンセラーの働いている学校に一人のなかなか学校生活がうまくいかない男子生徒がいたそうです。友人関係がむずかしい。登校しづらいし、教室にも入りづらい。その男子がある日スクールカウンセラーのところに来て、「先生、僕とうとう変になった。教室のみんなが、先生も友だちもゲジゲジに見える」と言ってきたのだそうです。とても混乱しています。このとき、このスクールカウンセラーは狼のまつ毛の話をこの男子に向けて語り、「君も狼のまつ毛を持っている人なのかもしれないね」と言ったのだそうです。そうしたら、この男子はじーっと考えてから、落ち着いて、部屋を出ていったということです。それからも何度かカウンセラーの先生のところに来て、この話をしてほしいとお願いして、ただじっと聴いていたということです。

 狼のまつ毛は何なのでしょうか。この話は何を教えてくれているのでしょうか。考えてみてください。

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