校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

4月27日おもしろい本を読みましょう(46)小林宙「タネの未来」

2020.04.27

 4月も最後の週の月曜日となりました。学習に気持ち新たに取り組んでいると思います。家での学習にも自分なりのペースができてきたでしょうか。季節は初夏へと進んでいます。しかし、昨日の暖かさから一転して今日はまた寒い日となり、雨も降りだしました。気候が安定しませんが、雨が降ると草木は活力を得るかもしれません。庭で花を育てている方もあるでしょう。夏に咲く花の種まきの時期です。1年生もいつもならアサガオを一人一鉢ずつタネを蒔いて育てます。3年生はホウセンカの観察をしています。2年生は野菜の苗を植えたりしているでしょう。私も毎年アサガオの種まきをしています。種をまくときはどのように育つか考えてわくわくします。

 今日、紹介する本の著者はいま高校3年生の男子です。伝統野菜に関心があり、タネを大事にしています。自分の畑ももっているそうです。伝統野菜とは日本に古くからある野菜の種類で、農家の方が大事に作り続けてきた種類です。産地の名前がついているものや形状を表すおもしろい名前がついているものもあります。「東京長かぶ」は東京で作られてきた長い形のかぶだそうです。伝統野菜があるのですから、新しい野菜もあります。トマトでも色々な種類があり、新しい品種が次々に作り出されています。新しい種類は栽培しやすかったり、特徴がはっきりしていたりして、人気が出ると多くの農家が作るようになるという場合もあります。このような新しい野菜が出てくる中で、伝統野菜のタネを大切にして受け継いでいくことを著者の小林君は大事なことと考えています。少し珍しい高校生だと感じます。自分のやりたいことを地道に追求しています。

 アサガオを育てようと思ったら、いくつかやり方があります。種をまく。苗を買ってきて植える。鉢植えになっているものを買う。種をまくとしても、種を買ってくるか、去年咲いた花から取っておいた種をまくか、どちらかになります。種をとっておいて植えても、しっかり育たない場合もあるそうです。私の場合は20年くらい前にいただいた種から、ずっとくり返し育て続けています。しかし、これは幸運なことだったのでしょう。もちろん毎年大切に育て、種も大切に取っておきますが、作りやすい種類だったのでしょうし、くり返しができる種類だったということになります。今年もこれから種まきをします。ここまで続けてくると、失敗したくない気持ちが働いて、種まきするときには心配もしながら慎重になります。もし全滅してしまったら、ここまで続けてきたいのちが失われてしまう、そのような気持ちになります。

 伝統野菜のタネは受け継がれてきたものです。私も自分のアサガオの小さな経験から、タネを受け継ぐことの意味や大変さが少しわかります。小林君はずっと日本の農業の中で受け継がれてきたタネを大切にしようとしています。伝統野菜のタネを求めて日本の各地に出かけて種苗店を訪れ、タネをみつけると自分で買って、それを売る仕事を起業しています。お金を儲けるためというよりは、タネを受け継ぐ方法を確保するということを考えています。タネを受け継いで育てることをしないと、そのタネのもっていたいのちは失われ、失われると取り戻すことはできない。小林君はこのこと考えています。自分の知りたいことはとことん知ろうとする。自分でもやってみる。小林君はそういう人物に見えます。

 タネを買うのではなく、タネを受け継ぐ。タネを通していのちの歴史を考えさせられます。日本の農業はどのようになっていくのだろう、日本のタネに未来はあるのか、このようなことも考えさせられます。小林君も学校に行くことができない今、自分なりの学習をしながら、タネを大事にする方法を考えていることでしょう。

小林宙 「タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ」 家の光協会 2019年

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