校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

4月5日おもしろい本を読みましょう(28)スーザン・サザード「ナガサキ」

2020.04.05

 この本はサードステージ生に向けて、特に12年生に向けて紹介します。

 スーザン・サザードはアメリカ人で、高校生の時に交換留学生として日本に滞在した経験があります。その時に修学旅行で九州に出かけ、長崎を訪れました。楽しい旅行だったと記憶しているようです。アメリカに帰国後、1986年のある時、突然に、日本語ができるなら通訳を頼みたい、と長崎の被爆者が体験談を語る会に招かれます。そして、この出会いによって人生が変わってしまいます。谷口稜嘩さんという被爆者でした。谷口さんの話を聞くことにより、被爆者の現実について自分は何も知らなかったと深く感じ入り、真実を知りたいと動き始めます。

 11年生の長崎研修旅行では、平和学習の一環として被爆者から体験談を聞く機会を設けています。数年前まで11年生は永井悦子さんという方のお話を伺ってきました。被爆された方にご自身の体験を語っていただき、それに直接に耳を傾けるのは大変貴重な機会です。そこには公の歴史的な事実には見えてこない、一人の人の体験、その方の真実があります。スーザン・サザードは谷口さんの話を聞くことにより、個人の体験、被爆語り部の体験を追うことの重要性に気づいていきます。「ナガサキ」では、谷口さんの他、永井悦子さんも取り上げられています。原爆投下前にどのような生活をしていたのか、そして、被爆とはどのような体験だったのか、その後にどのような人生を送られたのか、一人ひとりにていねいに取材して話を聞き、一人ひとりの人生に迫っています。

 アメリカ人としてこの本を書くことは、原爆について色々なものの見方があることを示すことです。アメリカでの一般的な原爆についての理解や解釈を一方において、スーザン・サザードは自分が出会った被爆者から見た原爆の体験を追っていきます。ていねいに出来事を追っていくことで、見逃されてきたこと、隠されてきたことにも気づき、明らかにしていきます。出会ってしまった事実を自分の中で放置することはできない、この意識がスーザン・サザードを動かしたのでしょう。

 永井悦子さんが取り上げられていると知って、この本を手にしました。永井さんのお話を私も伺う機会があったので、非常に現実的に胸に迫る思いをもってこの本を読みました。数年前にご高齢のために、お話くださることから引退されてしまったことは残念なことでした。このサザードの本を通して、永井悦子さんや谷口さん、その他の方々の人生について学ぶと共に、サザードがアメリカ人として試みていることにぜひ接してほしいと思います。一人のアメリカ人が、アメリカ人のために書いているという視点が興味深いところです。

 日本語訳も出ています。しかし、英語で読むこともできます。私は翻訳が出る前に原書を入手しました。結局読了するまでに時間がかかってしまいましたが、日本語で知っている事柄について英語で読むという意味深い体験となりました。皆さんにも原書で読んでみることを勧めます。英語ではこのように表現するのかという発見があることでしょう。重い内容の本ですが、価値ある本です。

スーザン・サザード著 宇治川康江訳 「ナガサキ」 みすず書房 2019年

Souzan Southard Nagasaki: Life after Nuclear War. Penguin Books. 2016

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