校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

4月1日おもしろい本を読みましょう(25)小梅けいと(原作スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ)「戦争は女の顔をしていない」

2020.04.01

 4月1日になりました。今日も冷たい雨の日となってしまいました。雨にぬれた桜の花びらが散っていくの見ながら、暖かな日差しを受けて、青空に映える桜が見たかったと残念に思っています。皆さんはどのような1日を過ごしたでしょうか。4月は日本では新しい年度の始まりです。様々なことが新しくなります。しかし、コロナウィルスのために、新しい活動を例年のように始められないものが、今日の日本では数々あったに違いありません。気持ちの上では、新しい年度になったことをしっかり受け止めて、心機一転進みたいものです。

 今日、紹介する本は漫画です。しかし、内容はサードステージ生向けです。原作者アレクシェーヴィチはベラルーシ出身のノーベル賞を受けた女性作家です。「戦争は女の顔をしていない」というタイトルから、皆さんはどのようなことを想像しますか?この本で扱っている戦争は第2次世界大戦のことで、当時ベラルーシはソヴィエトの一部でした。戦争と女性はどのように関わるのでしょうか。アレクシェーヴィチは第2次世界大戦に参加した女性たちの話を丹念に聞いて、それを一冊の本としてまとめました。何人もの女性たちの戦争体験が書かれています。女性たちの大変な経験の記録です。その原作を小梅けいとは漫画に描きました。時代背景にも細かく配慮した丹念な仕事で、それぞれの女性たちの経験がヴィジュアルに迫ってきます。原作の重みを伝えながら、わかりやすい作品となっています。

 女性の戦争体験というと、皆さんはどのようなことを想像するでしょうか。私が原作を読み始めたときに予想していた内容は、戦争下の生活で、夫や家族との別離、避難や窮乏に苦しむ女性たちの姿、ひめゆり部隊のような看護師としての姿、いつのまにか戦争に巻き込まれ、戦争への怒りや悲しみを唱える女性たちの姿というものでした。このような日本の女性たちのことを考えての予想にたって、当然、「戦争は女の顔をしていない」ものでしょうと考えていました。しかし、この本の中に描かれていたのは、予想に反する女性たちの経験でした。この本の中では、国を守りたい一心で自ら志願し、看護師、洗濯部隊、兵士として戦線に参加した女性たちが、自分たちの経験について語ります。戦場で、男性と共にいのちをかけて闘い、生き抜き、男性にひけをとらないように必死で生きた日々が語られます。戦争は女の顔をしていない、同じ結論を、この女性たちはこれほどまでに異なる角度から生きたのか、と深く驚かされる本でした。戦争とは何なのか、新たな視点で考えさせられます。

 とても重い作品です。しかし、漫画はそれを読ませてくれます。そして、漫画を読んで考えさせられたら、原作にも挑戦してほしいと思います。漫画には漫画の迫力が、原作には原作の迫力があります。アレクシェーヴィチは丹念に取材して、女性たちが心の奥に抱えている思いを引き出して書いています。

 小梅けいと 原作スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ 「戦争は女の顔をしていない」1      KADOKAWA 2020年

 スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ 「戦争は女の顔をしていない」 岩波現代文庫 2016年

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