校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

5月27日おもしろい本を読みましょう(66)中村桂子「『ふつうのおんなの子』のちから」

2020.05.27

 今日はまず、世界聖心同窓会AMASCから日本聖心同窓会JASHに送られてきた、今年の創立者祝日のイラストを紹介します。mascherina.jpgマスク姿のソフィです。世界の聖心の卒業生が、コロナウィルス感染症の危機をソフィと一緒に一つの心で乗り越えようとしています。この画像は日本聖心同窓会のウェブサイトで見ることができます。 

「今日はどうだった?」「フツー」。このような会話をすることがありますか?「ふつう」というと、いつもと変わりなし、特別なことは何もなし、でつまらないようですが、3月から新型コロナウィルス感染症のためにずっと「ふつう」でない生活を送っています。「ふつう」、「普段通り」ということが、いかに大切かと感じています。では、改めて考えてみると、「ふつう」とはどのようなことでしょう?私は「ふつうの人」であることは大事だと思います。

 中村桂子さんは私の尊敬する生命科学者です。生命誌研究者と言った方がよいかもしれません。JT生命誌研究館の館長をこの3月まで務められました。DNAを研究された専門家ですが、「ふつう」の人として生きることを目指して、ふつうの人にもわかる科学の本を書いてこられました。科学の話が専門家にしかわからないのはおかしい、という考えを持っていらっしゃるからです。だから、いつでもとてもわかりやすい言葉で、わかりやすく科学の知識を説明してくださいます。生命誌という考え方も中村桂子さんの大事な発想です。地球の生命は38億年の長い歴史の中で進化してきて、それぞれのいのちがつながっていて、どのいのちも同じように重要とされます。JT生命誌研究館のウェブサイトを訪れると、生命誌マンダラという美しい画像を見ることができます。このマンダラは大きな円で表され、その中にあらゆる生きものを見ることができます。円形であるということが、どのいのちも等しく大切という考え方を表しています。地球の歴史の中での人間について考えるためには大事な視点です。

 私が中村桂子さんを尊敬するもう一つの理由はとても関心の幅が広く、音楽や文学を心から楽しんでいらっしゃると同時に、ふつうの日常生活も大切にしていらっしゃるということです。たとえば、宮澤賢治の「セロ弾きのゴーシュ」と生命誌を結びつけて、生命誌研究館でこの音楽劇を企画されています。ゴーシュは動物たちに助けられて、チェロが上達するのです。物語のその点に注目して、人間と動物の関わりに気づかせてくれる楽しい取り組みでした。そして、これを通してふつうが自由につながることを教えてくださっています。

 今日の本は「ふつうのおんなの子」についての本です。そして、その「ちから」についてです。「おんなの子」と平仮名で書いてあるのにも、理由があります。「女」と漢字で書くと、現代社会の価値観が入っているようだ、と中村桂子さんは考えています。つまり、自由でなくなる。「おんなの子」と書くときには、その子がその子であること、「私の中におのずと生まれてくる『おんなの子がおんなの子である本質」が大事にされ、生かされる、そのように考えていらっしゃいます。ふつうの感覚で大事にしたいことが、大事にできること、自分の心に正直なこと、自分らしくてよいこと、おんなの子にこのようなことを薦めてくださるのはとてもうれしいことです。大人になって色々な経験を重ね、科学者として研究を積んでも、おんなの子の心を持ち続けているからこそ、このようなことを大事にできます。このことも尊敬する理由です。場合によって、男の人でも「おんなの子」らしさをもっている人がいるそうです。それは、その人が世の中の考え方に流されず、自分の考えや感じ方、いのちを大切にする心をもっている場合です。「ふつうのおんなの子」が自分らしく生きたら、どれほどの「ちから」を発揮できることでしょう。

 この本には、ふつうのおんなの子が主人公として登場するおもしろい本が紹介されています。「足長おじさん」のジューディ、「長くつ下のピッピ」、「若草物語」のジョー、「ふたりのロッテ」、「モモ」、「ハイジ」、「小公女」のセーラ、「赤毛のアン」、「虫めづる姫君」などのおんなの子、そしてまだ他にも何冊ものおもしろい本とすてきなふつうのおんなの子が紹介されています。このおんなの子たちは自分らしい力を発揮しています。読んでみたいと思う本がきっとあります。

 この本を通して、「ふつうのおんなの子」について考えてほしいと思います。私の「ふつう」はどんなかしら、私の「ふつう」はいきいきしているかしら、中村桂子さんの考える「ふつうのおんなの子」について読みながら、私の「ふつう」が大きくなったり、はっきりしたり、ちからが強くなったらすばらしいと思います。そして、私の中の「おんなの子」がのびのびして、じっくり考えて、納得できたらよいと思います。そうしたら、「ちから」ももっと湧いてきます。もしかしたら、お母様にもこの本を読んでいただいたら、親子で共通の話題がきっとたくさんみつかります。

中村桂子 「『ふつうのおんなの子』のちから 子どもの本から学んだこと」 集英社 2018年

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