校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

4月28日おもしろい本を読みましょう(47)梨木香歩「岸辺のヤービ」

2020.04.28

 皆さんの家ではペットを飼っていますか?犬や猫、ウサギ、ハムスター、小鳥、もしかするともっと珍しい動物を飼っているご家族もあるかもしれません。動物は飼っていなくても、庭や植物を大事にしているご家族もあるかもしれません。学校では、一昨日の日曜日にハクビシンを見かけました。皆さんが登校していなくて学校がひっそりしているので、ハクビシンはのんびり、ゆうゆうと歩いていました。しかし、人影に気づくと、さっと草の茂みに入って隠れてしまいました。野生の動物がすばやく姿を隠すときは、とてもすばしこいので、あれっ!確かにいたはずだけれど、見間違いだったかしら?と思うほどです。ところで、ハリネズミを飼うこともできるのでしょうか?

 今日、紹介する本には、ハリネズミのような不思議な生きものが出てきます。動物のはずですが、人間と話ができて、少し人間の家にも似た素敵な家で、きちんとした生活をしています。ヤービという名前の男の子で、布の袋のようなバッグを肩から斜めにかけていますが、服は着ていません。住んでいるところは川の岸辺です。季節は夏らしい。というのも、ヤービについて語る「わたし」と言う人は学校の先生で、夏休みにボートに乗って本を読んでいたときに、このハリネズミに似た不思議な生きものに出会ったからです。ヤービは小さい生きものだそうです。あるとき、何かがいるらしいと気づきます。そして初めてヤービとしっかり出会ったとき、やりかけていたことを途中でやめるほど、とても驚いてしまいます。何をやりかけていたか?ボートの上でおやつに食べようと思っていたミルクキャンディの包み紙をむいて、さあそれを口に入れようとしていたところでした。「わたし」はどこかおかしみのある人です。ヤービと目があって、びっくりして、どうしたでしょうか。驚いて叫んだ?驚いてキャンディを放り出してしまった?驚いてキャンディを食べた?「わたし」は驚いて、キャンディをその不思議な生きものヤービの前にそっと置きます。それが、「わたし」とヤービが友だちになったきっかけでした。

 ヤービにぜひ出会ってください。ヤービにはパパとママもいます。ムーミンパパ、ムーミンママのよう・・・と思いましたが、この物語の中では、パパ・ヤービとママ・ヤービです。「わたし」がヤービと親しくなっていくと、川の岸辺には他にもたくさんの生きものがいること、それぞれに特徴や生き方があることがわかってきます。でも、不思議なことに、普通の人には気づかれていないようです。

 子どもにだけわかる世界があるのではないでしょうか。あるいは、大人でも、子どもの心を持っている人だけが気づくことのできる世界が。そして、ひっそりとした学校の庭にさっと姿を見せて、さっと姿を消してしまったハクビシンのように、確かに住んでいるけれど、いつも出会えるわけではない生きものたち。そのようなものに出会う可能性があるのは、やっぱり子どもたちだと思います。子どもはいつも何かおもしろいものを探して、忙しい大人が見ないようなところにしゃがんで何かをじっと見たりします。ヤービのような不思議な生きものが、もしかしたら、皆さんの家のどこか片隅に住んでいないでしょうか。

梨木香歩 画小沢さかえ 「岸辺のヤービ」 福音館書店 2015年 (最後のページまで挿絵をお見逃しなく。) 

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