校長室ブログ - Spirit of "Mikokoro" -

3月23日おもしろい本を読みましょう(17)宮澤賢治の童話

2020.03.23

 学校が臨時休校となってから4週目となりました。今日は昨日と打って変わって肌寒い日です。桜の花は、昨日の暖かさの中でだいぶ開花が進みましたが、今日はまた冷蔵庫の中におさめられて開花もストップするかのようです。

 今日は初等科の皆さんに向けて、宮澤賢治の童話を紹介します。宮澤賢治の本はもう読みましたという方も多いと思いますが、宮澤賢治は数多くの作品を書いています。まだ知らない作品がきっとあるでしょう。

 宮澤賢治は自然や宇宙への深い関心を持っていました。星や星座が出てくる作品を書きました。「銀河鉄道の夜」や「双子の星」がそうです。「銀河鉄道の夜」は不思議な話です。ジョバンニとカンパネルラが星を巡る旅をして、不思議な人々に出会って、二人で楽しい時間を過ごしていたはずなのに、最後は悲しい終わり方の話です。そうやって考えてみると、宮澤賢治の作品は不思議で、どこか寂しいものが多いかもしれません。宮澤賢治は人間の心の深さや悲しみを大切にしていたのでしょう。

 人間と動物が交流する話もあります。「セロ弾きのゴーシュ」の主人公ゴーシュは、オーケストラのチェロ奏者ですが、あまり上手でないので指揮者に注意されてばかりです。むしゃくしゃしながら夜、家で練習していると、まわりに動物たちが出てきます。はじめのうち、ゴーシュは自分のことばかりに夢中で、動物たちのことを考えていませんでしたが、最後に大事なことに気づきます。人間の自分勝手な姿は他の話にも出てきます。たとえば「注文の多い料理店」。この本では自然と人間は対立しているので、自然は怖い存在です。しかし、「雪わたり」や「どんぐりと山猫」では、人間が動物と話したり、お招きを受けたりして、友だちになります。宮澤賢治は岩手県の自然の豊かなところに住んでいましたから、自然の美しさや豊かさと不思議な力を深く感じていたでしょう。自然の怖さも知っていたでしょう。自然と上手に、共に生きていきたいと考えていたのではないでしょうか。

 人のために生きる、ということも宮澤賢治は大切にしていました。「グスコーブドリの伝記」や「虔十公園林」には、人のために共に誠実に生きようとする人物が描かれています。主人公たちの自然との関わり方も心に残ります。

 宮澤賢治はことばの使いかたも独特です。「雪わたり」では子どもたちが「堅雪かんこ、凍み雪しんこ」と歌いながら雪道を歩きます。いかにも寒そうな感じが伝わります。「風の又三郎」には「どっどど どどうど どっどど どどうど」というくり返しが印象的な歌が出てきます。恐ろしいほどの力で吹く激しい風の様子を歌っています。そこに又三郎という風変わりな転校生が登場するので、又三郎はどんな子なのだろう、と不思議な雰囲気が大きくなっていきます。文字をたどりながら、宮澤賢治はどのように読んだり、歌ったりしていたのか、と想像してみるとおもしろく感じます。声に出して読んでみるとおもしろさが増します。ご家族と代わりばんこに読んでみると、色々な読み方が出てくるかもしれません。

 まだまだおもしろい作品がたくさんあります。今回のように時間がたくさんあるときに、次々と読んでみたらどうでしょうか。「よだかの星」や「貝の火」も不思議な話で、人間が生きることの深みを宮澤賢治はどのように見つめていたのだろう、と考えさせられます。私のお気に入りは「やまなし」という静かな作品です。山の川の底にいるサワガニの子どもが川底から水面を見て、春から秋へ季節の移り変わりの中で成長していきます。秋になって、やまなしの実が水面に落ちてきます。水の上は美しくもあり、危険なところです。落ちてきたなしに驚く子カニに、やまなしは恐れるものではないよとお父さんカニが教えます。プールで水にもぐって水面を見上げた気分で、カニには世界がこう見えるかと想像してみるとおもしろいですし、宮澤賢治は川底にいるサワガニを見て、こんな親子の会話を考えたのかと思うこともおもしろいです。

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